事例集

DVが原因で別居し、生計同一要件を満たさなかったが遺族年金の受給を認められた事例

公開日: 2021年5月31日
更新日:2021年5月31日

【社会保険審査会裁決事例】※当センターがサポートした案件ではありません。

平成28年(厚)第5166号  平成29年4月28日裁決

厚生労働大臣が、平成〇年〇月〇日付で再審査請求人に対してした、原処分を取り消す。


事案概要


請求人が厚生労働大臣に遺族厚生年金の請求をしたところ、死亡した配偶者と住民票上の住所が異なっており、生計維持関係が認められないとして遺族厚生年金を不支給とする処分がなされたことを不服として、審査請求を経て、当審査会に対し、再審査請求をした事案

住民票上の住所が異なっていることについては、亡AのDVが原因で請求人が家を出たとされており、亡Aから請求人に対する経済的援助、及び、音信・訪問はなかったとされる。


争点


請求人が亡Aの死亡当時、同人によって生計を維持した配偶者でないと認めることができるかどうか。


結論

請求人は、亡A死亡の当時、同人によって生計を維持したものと認めることができるから、当審査会の上記判断と符合しない原処分は不当であるから、取消しを免れない。

 本案件のポイント

本案件のように、夫と妻が別居しており、住民票上の住所が別の事例について、生計維持関係が認められるには、次の(ア)、(イ)のいずれかに該当する必要があります。


(ア) 現に起居を共にし、かつ、消費生活上の家計を一つにしていると認められるとき

(イ) 単身赴任、就学又は病気療養等の止むを得ない事情により住所が住民票上異なっている
  が、次のような事実が認められ、その事情が消滅したときは、起居を共にし、消費生活上の家計を一つにすると認められるとき

 (a) 生活費、療養費等の経済的な援助が行われていること
 (b) 定期的に音信、訪問が行われていること


本案件が、「請求人は、亡A死亡の当時、同人によって生計を維持したものと認めることができる」と判断されたポイントは、以下の通りです。

・亡Aと請求人の別居は、身体に対する暴力等によるものであり、その暴力からの保護を求めるための別居であったと認める事ができる。

・別居期間は、50年近い婚姻期間のうちの末期の1年数か月にすぎなかった。

・請求人は、〇警察署の保護を受け、その後、〇女性センターに入所し、○○裁判所がした保護命令により、6か月間の保護を受けていた。

請求人は、亡Aから経済的援助を受けておらず、定期的な音信・訪問もなく、生計同一関係の要件を満たす状況ではありませんでしたが、本件においては、いまだ請求人と亡Aの生計同一関係は失われていないものと認めるのが相当であり、上記認定基準のア及びイに当たらないことをもって、生計維持関係を否定することは、実態と著しく懸け離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くといわなければならないと判断されました。




【社会保険審査会裁決より抜粋】

 上記のような基準は、一般的・基本的なものとしては相当と解されるので、本件をこれに照らしてみると、前記1で認定した事実により、請求人が上記(1) のアに該当しないことは明らかであるので、上記(1) のイに該当するものと認められるかどうかが問題となる。

 亡Aと請求人の住民票上の住所
が異なっていることについては、亡AのDVが原因で請求人が家を出たとされており、亡Aから請求人に対する経済的援助、及び、音信・訪問はなかったとされているから、上記(1) のイにも該当するとはいえない。
 
 しかし、一方配偶者が死亡した時点という一点を捉えて、その時点において他方配偶者の生計が支えられていないとして生計維持関係を認めないとすることが著しく合理性を欠く場合、たとえば、一方配偶者の死亡時点において、別居のため一体の生計が営まれておらず、また、仕送り等経済上の援助がない場合であっても、それが配偶者の一方又は双方の疾病、老齢、老人保健施設入所その他やむを得ない事情によるものであって、双方に婚姻関係解消の意思が認められず、いわば常態から逸脱した状況が長期間続いているわけでなく、上記やむを得ない事情が解消すれば速やかに夫婦の共同生活が再開されることが期待されるような場合には、生計維持関係が失われたか否かの判断は、その間の事情を、実態に即して総合的に考慮してなされるべきものであり、認定基準においても、前述のとおり、「これにより生計維持関係の認定を行うことが実態と著しく懸け離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には、この限りでない。」としているところである。
 
 本件の場合、亡A死亡時において、亡Aと請求人が別居していたことは明らかであるから、前記(1)のアに該当するとはいえない。しかしながら、亡Aと請求人の別居は、請求人がその生命・身体に明白かつ現在の危険を感じるのに十分な、亡Aによる暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動(以下「身体に対する暴力等」という。)によるものであって、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律第1条所定の、配偶者からの身体に対する暴力等による被害を回避し、その暴力等からの保護を求めるための別居であったと認めることができる。そして、その別居期間は、50年近い婚姻期間のうちの末期の1年数か月にすぎず、その経緯をみるに、請求人は、亡Aによる身体に対する暴力等を契機に、平成○年○月○日に○○○丁目の住所の自宅を出て、○○警察○警察署の保護を受け、その後、○○女性センターに入所したとされ、同年○月○日に○○裁判所がした保護命令によって、6か月間の保護を受け、平成○年○月○日に、○○区の住所に転居しているのであって、亡Aが死亡したのは平成○年○月○日であることから、別居の状態はまだ固定化しているとはいえず、請求人と亡Aの間に離婚の合意は認められず、請求人と亡Aの婚姻や同居、協力扶助等に関しては、いまだその行方が定まらない時期にあり、その生計維持関係に係る事態は極めて流動的であったとみることが相当であり、別居が短期間で一時的なものであったと評価できることも併せ考えると、本件においては、いまだ請求人と亡Aの生計同一関係は失われていないものと認めるのが相当であり、上記認定基準のア及びイに当たらないことをもって、生計維持関係を否定することは、実態と著しく懸け離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くといわなければならない。

 以上によれば、請求人は、亡Aの死亡の当時、同人によって生計を維持したものと認めることができるから、当審査会の上記判断と符合しない原処分は不当であるから、取消しを免れない。
 

 

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