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【重婚的内縁関係】婚姻費用が事実上の離婚給付として判断され、事実婚の妻が遺族年金を受給することになった事例

公開日: 2021年7月 8日
更新日:2021年7月 8日

【社会保険審査会裁決事例】※当センターがサポートした案件ではありません。

平成25年(厚)第645号  平成26年2月28日裁決

主文 厚生労働大臣が平成〇年〇月〇日付で、再審査請求人に対し、遺族厚生年金を支給しないとした処分は、これを取り消す。



事案概要


亡Aが死亡したため、事実婚の妻が遺族厚生年金を請求したところ、「死亡した方と戸籍上の配偶者との法律婚関係が形骸化していたとは認められないため。」として、遺族厚生年金を支給しないとした処分を不服として、社会保険審査会に再審査請求をした事案。

争点


亡Aと戸籍上の妻との婚姻関係がその実態として全く失っていたものとなっていたか否か


結論

亡Aと利害関係人(戸籍上の妻)は亡Aの死亡に至るまで約〇年間にわたって別居状態にあったこと、亡Aはその間は請求人(事実婚の妻)と同居して生活を共にしていたこと、別居期間中における亡Aと利害関係人の別居解消に向けての対応や、金員の授受を含む交流の状況等に関する諸事情を総合勘案するならば、亡Aと利害関係人の婚姻関係は、亡Aの死亡当時においては、すでにその実質を失って形骸化し、かつ、その状態は固定化していたものと認定するのが相当である。

請求人は、亡Aの死亡当時において、同人によって生計を維持していた配偶者であったと認定するのが相当である。以上によれば、厚生労働大臣が、請求人に対し、亡Aの死亡に係る遺族厚生年金を支給しないとした原処分は不当であり、取消しを免れない。

 本案件のポイント


重婚的内縁関係においては、まず、故人と戸籍上の妻の婚姻関係が実態を失っていたかが争点となります。

そのため、いくら事実婚の妻が状況的に内縁関係と認められる関係であっても、故人と戸籍上の妻の婚姻関係が実態を失っていなければ遺族年金の受給は認められません。

「婚姻関係が実態を全く失っているものとなっている時」とは、次のいずれかに該当する場合をいいます。

ア 当事者が離婚の合意に基づいて夫婦としての共同生活を廃止していると認められるが戸籍上離婚の届出をしていないとき

イ 一方の悪意の遺棄によって夫婦としての共同生活が行われていない場合であって、その状態が長期間(おおむね10年程度以上)継続し、当事者双方の生活関係がそのまま固定していると認められるとき
 

「夫婦としての共同生活の状態にない」といい得るためには、次に掲げるすべての要件に該当する必要があります。

① 当事者が住居を異にすること。

② 当事者間に経済的な依存関係が反復して存在していないこと。

③ 当事者間の意思の疎通をあらわす音信又は訪問等の事実が反復して存在していないこと。


本案件が、亡Aの死亡当時においては、すでにその実質を失って形骸化し、かつ、その状態は固定化していたものと認定するのが相当である。」と判断されたポイントは、以下の通りです。


・亡Aは事実婚の妻との同居生活をやめ、戸籍上の妻との別居を解消する意思があったとは考えられず、別居解消に向けた真摯な話合いがあったとも考えにくいといわざるを得ない。

・別居後の平成〇年〇月〇日に本件審判がなされ、亡Aは戸籍上の妻に対し、別居期間中の婚姻費用として毎月〇〇万円を支払っており、これは、両名間に生計維持関係があったことを示すものであるかのようにも考えられるが、名目は婚姻費用ではあっても、実質は、事実上の離婚給付ないしは慰謝料に相当するものというべきである。

・婚姻費用の支払いを除けば、他に何ら経済的援助の支援を行ったことをうかがうことができない。

・音信・訪問について、亡Aとの別居後も戸籍上の妻とはメールやBを通じて連絡をし、継続的な音信・訪問の事実があったことを述べているが、両名の間の音信は、離婚をする場合の具体的条件の折衝、婚姻費用の振込みについてのものと認められること、Bの大学生活にまつわる亡Aと利害関係人の交流として述べられているものは、
亡AとBの親子関係から生じたものであって、必ずしも、亡Aと戸籍上の妻の婚姻関係から生じたものではないとみるのが相当である。

・亡Aの葬儀の喪主は、事実婚の妻が務めた。

本案件については、夫から妻に婚姻費用が毎月支払われており、一見、経済的援助が行われていたと思えますが、あくまでも名目上であり、実質は離婚給付又は慰謝料いに相当すると解され、経済的援助には該当しないと判断されました。また、音信・訪問については、両者間で行われていたメールのやり取りは離婚や婚姻費用の振込みに関することであり、Bの大学生活にまつわる内容は、亡AとBの親子関係から生じたものであるため、該当しないとされています。これらのことから、婚姻関係は形骸化していたと判断されました。

婚姻関係の形骸化については、経済的援助無し、音信・訪問無しである必要があります。

そのため、「夫から妻へ婚姻費用が支払われていた。メールのやり取りがあった。」という事実があると、婚姻関係の形骸化が認められるのは難しいと思われるかもしれませんが、本案件のように婚姻費用の支払いがあっても、それは離婚給付又は慰謝料に相当するとされ、経済的援助があったとは認められない。メールや電話等の内容も離婚に関することや、婚姻費用の支払いに関することであれば、音信・訪問に該当しないと判断された裁決例が他でも見受けられますので覚えておきましょう。
 


【社会保険審査会裁決より抜粋】

 亡Aと利害関係人との婚姻関係が形骸化し、かつ、その状態が固定化していたかどうかであるが、両名の婚姻関係は、亡A死亡の当時において、形骸化し、かつ、その状態が固定化していたものと認定するのが相当である。その理由は次のとおりである。

ア 亡Aと利害関係人は、当時両名とBで生活を共にしていた○○町宅を亡Aが出たため、平成○年○月ころから別居となり、以来、亡Aが平成○年○月○日に死亡するまでの約○年間、そのような状態に至ったことについて、亡Aと利害関係人のいずれがより大きな責めを負うべきであるかはともかく、別居の状態が続けられ、それが解消されることは遂にはなかったことが明らかである。そして、この間、両名の間で別居解消に向けての前向きの話合い等が行われた明確な形跡も存しないというべきである。かえって、後記の (2) でも触れるように、亡Aは、平成○年○月ころからは、継続して請求人と同居生活を営んで生計を共にしていたことが明らかであり、亡Aから利害関係人に離婚を求めたり、両名間で離婚をする場合の具体的な条件についての折衝がなされるなどのことがあったとうかがわれることにも照らすならば、亡Aにおいて、請求人との同居生活をやめ、利害関係人との別居を解消して同人のもとへ戻る意思があったなどと考えることはできないし、同人との間で、別居解消に向けた真摯な話合いがあったとも考えにくいといわざるを得ないところである。また、利害関係人としても、亡Aのそのような生活状況と意向を十分に認識していたであろうことは推測に難くないところである。

イ 別居後の平成○年○月○日に本件審判がなされ、亡Aは、利害関係人に対し、本件審判に基づき、別居期間中の婚姻費用として、平成○年○月まで毎月○万○○円(平成○年○月分については○万○○円)を、平成○年○月から同年○月までは毎月○万円を、平成○年○月には○万○○円をそれぞれ支払っていることが明らかであり、それは、別居後においても両名間に生計維持関係があったことを示すものであるかのような観を与えないでもないが、前記アで説示したように、亡Aは、上記審判がなされた時においては既に請求人と生活を共にしており、利害関係人とは離婚を望みこそすれ、同人との別居を解消して婚姻共同体としての実体を復活させる意思はなかったものというべきであるから、上記の金員は、名目は婚姻費用ではあっても、その実質は、法律上はなお利害関係人の夫であり、利害関係人に対する生活扶助義務を負っているという地位にあることや本件審判で命じられた義務の履行として行われたもので、亡Aからいえば、利害関係人との離婚に向けてその条件を整える意図もあったものと考えられ、いわば事実上の離婚給付ないしは慰藉料に類するものともいうべきであり、両名の婚姻共同体としての関係を維持するためという性質を有するものと考えることはできず、その支払は、亡Aと利害関係人との間の生計維持関係を示すことにはならないと解するのが相当である。そして、別居後、亡Aが利害関係人に対し、他に何らかの経済的支援を行ったことについては、これをうかがうことができない。

ウ 利害関係人は、前記3の (2) ないし (5) に記載したように、亡Aとの別居後も同人とはメールやBを通じて連絡をし、継続的な音信・訪問の事実があったことを述べているのであるが、前記1の (9) に記載したように、両名の間の音信は、離婚をする場合の具体的条件の折衝、婚姻費用の振込みについてのものと認められること、Bの大学生活にまつわる亡Aと利害関係人の交流として述べられているものは、亡AとBの親子関係から生じたものであって、必ずしも亡Aと利害関係人の婚姻関係から生じたものではないとみるのが相当であること、平成○年に亡Aが行った保険金の請求手続は、同人が保険契約者の立場で行ったものであり、また、当時利害関係人との離婚を円滑に進めたいとの意向を持っていたと考えられる亡Aが利害関係人の心証をできる限り良くしておきたいとの考えからのものであったとも推認されること、亡Aの葬儀の喪主は請求人が務めたこと、及び本件手続の全趣旨を総合すれば、前記3の(2) ないし (5) に記載の事情は、必ずしも亡Aと利害関係人との婚姻関係の実体がなお存続していたことを示すものとはいえないというべきである。

エ 以上のように、亡Aと利害関係人は亡Aの死亡に至るまで約○年間にわたって別居状態にあったこと、亡Aはその間は請求人と同居して生活を共にしていたこと、別居期間中における亡Aと利害関係人の別居解消に向けての対応や、金員の授受を含む交流の状況等に関する諸事情を総合勘案するならば、亡Aと利害関係人の婚姻関係は、亡Aの死亡当時においては、すでにその実質を失って形骸化し、かつ、その状態は固定化していたものと認定するのが相当である。

 請求人が亡Aによって生計を維持していた配偶者であったかどうかであるが、請求人が平成○年○月ころから○○宅及び○○市の○○宅で亡Aと同居し、同人の死亡までの約○年間にわたり、事実上の婚姻関係を継続してきた者で、その平成○年中の収入金額及び所得金額はいずれも○円であり、死亡した者によって生計を維持していた配偶者かどうかを認定する際の前記第3の1記載の所得基準を満たしていたことは、優にこれを認めることができるから、請求人は、亡Aの死亡の当時において、同人によって生計を維持していた配偶者であったと認定するのが相当である。

以上によれば、厚生労働大臣が、請求人に対し、亡Aの死亡に係る遺族厚生年金を支給しないとした原処分は不当であり、取消しを免れない。以上の理由によって、主文のとおり裁決する
 

 

 

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