事例集

内縁の妻に告げず戸籍上の妻に経済的援助を行っていた為、遺族年金の受給が認めらえなかった事例

公開日: 2019年10月 3日
更新日:2020年4月 8日

【社会保険審査会裁決事例】※当センターがサポートした案件ではありません。

平成28年(厚)第5306号、第5406号 平成29年9月29日裁決

主文 本件各再審査請求をいずれも棄却する。

事案概要


亡Aが死亡したため、内縁の妻が遺族厚生年金及び未支給の年金・保険給付を請求したところ、生計を維持されていた配偶者とは認められてないとして不支給になった処分を不服として、社会保険審査会に再審査請求をした事案。

争点


亡Aと戸籍上の妻との婚姻関係がその実態として全く失っていたものとなっていたか否か


結論

本件は、戸籍上の届出のある妻と亡Aとの婚姻関係が実態を全く失って形骸化し、かつ、その状態が固定化しているとはいえない以上、その余の問題点について判断するまでもなく、亡Aと重婚的内縁関係にある請求人は、遺族厚生年金及び未支給給付を受給することができる亡Aの配偶者に当たるものということはできない。

 本案件のポイント


重婚的内縁関係においては、まず、故人と戸籍上の妻の婚姻関係が実態を失っていたかが争点となります。

そのため、いくら内縁の妻が状況的に内縁関係と認められる関係であっても、故人と戸籍上の妻の婚姻関係が実態を失っていなければ遺族年金の受給は認められません。

「婚姻関係が実態を全く失っているものとなっている時」とは、次のいずれかに該当する場合をいいます。

ア 当事者が離婚の合意に基づいて夫婦としての共同生活を廃止していると認められるが戸籍上離婚の届出をしていないとき

イ 一方の悪意の遺棄によって夫婦としての共同生活が行われていない場合であって、その状態が長期間(おおむね10年程度以上)継続し、当事者双方の生活関係がそのまま固定していると認められるとき
 

「夫婦としての共同生活の状態にない」といい得るためには、次に掲げるすべての要件に該当する必要があります。

① 当事者が住居を異にすること。

② 当事者間に経済的な依存関係が反復して存在していないこと。

③ 当事者間の意思の疎通をあらわす音信又は訪問等の事実が反復して存在していないこと。

ほとんどの方が、上記イのケースに該当すると思います。

その場合、10年以上別居しており、夫から妻へ経済的援助は無く、音信又は訪問も無かったということであれば、婚姻関係が実態を全く失っているといえます。

本案件が、婚姻関係が実態を全く失ったものといえないと判断されたポイントは、以下の通りです。


・亡Aは、戸籍上の妻を自らの老齢年金の加給年金額対象者として申し出て、加給年金額が加算された年金を受け取っていた。

・亡A名義の金融機関の通帳から、亡Aの年金をもって戸籍上の妻に仕送りをしていたと考えるのが妥当であることがわかる。このことから、亡Aは、内縁の妻に告げず、定期的に戸籍上の妻に対して経済的援助を行い、亡Aが入院してからも、経済的援助の継続を図っていたといえる。

・亡Aが発病したときから死亡までの4か月は、発病のため連絡することができなくなったものの、それまでは音信があったことがうかがえる。

内縁の妻が知らないところで、実際は、故人が戸籍上の妻へ経済的援助を行っていたことが判断の最たる要因になったと考えられます。

また、遺言書において、「故人が内縁の妻を内縁関係と認識していた」ことについては認められたようですが、冒頭で説明したように、いくら内縁関係と認められても戸籍上の妻との間で婚姻関係が実態を失っていない限り、内縁の妻は遺族年金を受給することができません。



【社会保険審査会裁決より抜粋】

定期的に○○市内の金融機関の店舗からカードを用いての入金が認められる。
この入金と、利害関
係人(※戸籍上の妻)の陳述を照らすと、亡Aはキャッシュカードを用いて、利害関係人が通帳と印鑑を所持する金融機関の亡A名義の口座に振込みを行ったと考えられ、利害関係人が主張する2か月に1回という回数、初めは10万円だったが、8万円になり、最後はずっと5万円だったという金額も一致する。さらに、請求人は亡Aの年金で生活していたとしているところ、当該入金の日は、年金支払日とほぼ一致するため、亡Aは、自身に支払われた年金をもって、利害関係人に仕送りをしていたと考えるのが妥当であり、また、請求人は、亡Aが入院後に、亡Aの依頼で1回だけ利害関係人に振込みを行ったと述べており、当該振込みは、平成○年○月○日付の振込みを示していると考えられる。
このことから、亡Aは、請求人
には告げず、定期的に請求人に対して経済的援助を行い、亡Aが入院してからも、経済的援助の継続を図っていたといえる。亡Aが請求人を事実上の配偶者と認識していたことは遺言書からも認められるものの、利害関係人は亡Aから送金された金員を生活費の不可欠な一部として長期間生活してきたのであり、亡Aは、公的社会保障の分野において、利害関係人を配偶者として位置づけて加給年金の受給を続けていたことから、請求人の主張は採用できない。
また、利害関係人は、平成○年○月くらいに亡Aとの連絡が途絶えたと述べているが、亡Aの死亡が同年○月○日であり、発病から死亡までの期間が4か月であることから、亡Aは発病のために利害関係人に連絡をすることができなくなったものの、それまでは音信があったことがうかがえる。
これらを総合して見ると、上記1の( イ) 及び( ウ) を満たしておらず、上記1のイにも該当しないものとみるのが相当であるから、亡Aと利害関係人の婚姻関係は、その実体を全く失った
もの、すなわち形骸化していたとまではいえない。

 

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