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60年前はどうだった?本妻と内縁の妻の遺族年金請求

公開日: 2021年6月10日 更新日:2021年6月10日



今や、本妻(戸籍上の妻)がいても、内縁の妻(事実婚の妻)が
遺族年金請求できるということは、インターネットの情報を通じて、
昔の時代より、多くの人が知り得る機会が増えたことは間違いないでしょう。

では、昔はどうだったか。
本妻がいるケースで、内縁の妻の遺族年金の請求は行われていたのか?

今回見つけてきた事例は、なんと今から約60年前。

事例からすると、当時から、このような重婚的内縁関係による遺族年金の相談は行われていたようですね。

今回は、厚生労働省のHPから、昭和33年(1958年)の事例(約60年前)を見つけたので、ご紹介したいと思います。

昭和三十三年四月一〇日 鶴保年雑第一九号 厚生省保険局厚生年金保険課長あて鶴舞社会保険出張所長照会

 

下記の照会文書は、社会保険出張所が厚生省保険局に、重婚的内縁関係における遺族年金の事案について照会した内容です。



【昭和三十三年四月一〇日 鶴保年雑第一九号 厚生省保険局厚生年金保険課長あて鶴舞社会保険出張所長照会】

厚生年金被保険者が、本妻及びその子女と妾及びその連れ子を有し妾と同居し専ら妾及びその連れ子を扶養し本妻及びその子女に対しては何らの仕送りをしなかつた。被保険者が死亡した場合遺族年金受給権者は何れが妥当なりや御指示賜りたい。
 
なお調査の結果両者の生計状況は次の通りであります。
 
 
一 A(妻)
 
被保険者(本人)とは昭和二十三年十月より子女と共に別居生活するも離婚手続はしていない。
 
一 Aとその子の生計状況
 
1 家族
 
A (六〇歳) 無職
 
三男 (三〇歳) 会社員 月収二四、〇〇〇円
 
三男の妻 (二六歳) 無職
 
三男の長男 (二歳) 無職
 
五男 (二五歳) 会社員 月収一八、〇〇〇円
 
六男 (二〇歳) 会社員 月収一〇、〇〇〇円
 
三女 (一七歳) 学生
 
2 生計状況
 
三男、五男、六男の収入(五二、〇〇〇円)により生計維持し、被保険者からの仕送りなし
 
被保険者(本人)とは昭和二十四年九月から子女と共に別居するも被保険者の戸籍には入籍していない。
 
一 Bとその子女の生計状況
 
1 家族
 
B (五四歳) 商店の雑役婦 月収四、〇〇〇円
 
私生子 (一一歳) 小学生
 
2 生計状況
 
被保険者(本人)により生計維持す
 
一 本人の勤務する事業所に於ては本人の申請に基づき本人の給与所得税の扶養控除の対象者にBとその子女をあてている。
 
一 本人は昭和二十一年三月被保険者となり昭和二十九年八月脊髄兼右半身不随症に患り以来Bの看護を受け且つ昭和三十三年二月二日死亡するにより葬儀はBが行なつた。
 
一 本人死亡に際してB(妾)は直にA(妻)に通知するもA及びその子女達は葬儀に参加しなかつたが葬儀終了三日後本人の三男が来て遺品(衣類のみ)を持ち帰つた。なお其の他の遺品については無。
 
(昭和三三年四月三〇 保文発第二、八八一号)
 
(鶴舞社会保険出張所長あて 厚生省保険局厚生年金保険課長回答)
 
本年四月十日鶴保年雑第一九号をもつて照会のあつた標記について、左記のとおり回答する。
 
 
一 死亡した被保険者の妻(A)及び三女は、被保険者の死亡当時その者によつて生計を維持していなかつたものであるから、遺族年金の受給権者とならない。
 
二 妾(B)は、法律上の妻(A)が存することになり、厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第三条第二項に規定する「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」とは認められないから、遺族年金の受給権者とはならない。
 
三 Bの子は、その者が養子縁組により被保険者の子となつていたか、または被保険者によつて認知(民法(明治三十一年法律第九号)第七百八十七条に規定する認知の訴による場合を含む。)とされていたものであれば、遺族年金の受給権者となる。

見解

 
まず、重婚的内縁関係のケースの取扱について、昭和55年からは、「事実婚関係の認定について」(昭和55年5月16日庁保発第15号社会保険庁年金保険部長通知)という認定基準の通知が出ていますが、本事案は、昭和55年より前の時期になりますので、当時としては、重婚的内縁関係の判断基準が存在していなかったのかもしれません。

照会があった厚生保険局は、

本妻 → 生計維持関係になかった為、遺族年金の受給権者とならない
内縁の妻 → 法律上の妻がいるから事実上婚姻関係と同様の事情にある者とは認められないので、遺族年金の受給権者とならない

と回答しており、現在では、必ず審査され判断が下される「夫と本妻の婚姻関係の形骸化」については触れられていません。

両者の生計状況から要点だけ抜き出すと

【本妻】
・本妻と夫の別居期間は、約9年半。
夫は本妻に全く仕送りをしていなかった。子の収入により生計維持していた。
夫とは生計維持関係になかった。

【内縁の妻】
・夫が勤務する会社に夫が申請し、給与所得税の扶養控除の対象者に内縁の妻がなっていた。
葬儀は内縁の妻が行った。

現在の重婚的内縁関係を判断するポイントについて全てが記載されてるわけではないので、この状況で確定できるものではありませんが、

仮に、現在、同様の事例が遺族年金請求されたら、

夫と本妻の別居期間は、約9年半。おおよそ10年。
両者は生計維持関係になかったということなので、経済的援助、定期的な音信・訪問は無かったものと思われ、婚姻関係の形骸化についても、認められる可能性はあると思います。

一方、内縁の妻の状況ですが、給与所得税の扶養控除の対象者になっていますし、葬儀も執り行っているので、住民票の情報が無いのでわからないですが、もし同居していて住民票の住所も同一であれば、間違いなく社会通念上、夫婦としての共同生活と認められる事実関係にあったと認められるものと考えられます。

本妻は、婚姻関係の形骸化が認められる可能性があり。
内縁の妻は、事実上婚姻関係と同様の事情にある者と認められる可能性が高い。

当時は、本妻も内縁の妻も遺族年金の受給対象者とはならないと回答されたようですが、現在であれば、内縁の妻が遺族年金を受給できる可能性がある事例かと考えられます。


この記事を書いた人

遺族年金専門の社会保険労務士 三浦康紀 アルテユース社会保険労務士事務所 代表

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三浦 康紀
アルテユース社会保険労務士事務所代表

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